2010年10月16日 (土)

今日のお題:第4回日本思想史学会奨励賞(2010年度)受賞

謝辞と展望(桐原健真)

このたびは、貴重な賞を賜り有難うございます。選考委員の皆様をはじめ、ご推薦いただきました松田宏一郎・片岡龍両先生に対し、深く感謝いたします。

拙著『吉田松陰の思想と行動――幕末日本における自他認識の転回』(東北大学出版会、2009年)は、2004年に東北大学へ提出した博士論文を基にしたものであり、所収の諸論文につき丁寧な指導を賜った佐藤弘夫先生には心より御礼申し上げる次第です。そして、当方が日本思想史という道を選択することを勧めてくださった故・西村道一先生にも、この受賞の喜びをお伝えしたいと思います。また本書は、東北大学出版会の2008年度若手研究者出版助成を受けております。ここに謝意を表します。

拙著における松陰は、日本の固有性を主張する思想家として描かれます。しかしその固有性は、決して「万世一系の神聖国体」といった唯一性を誇る自己言及として語られるものではありませんでした。国々には各々の固有性があると主張する彼は、これらの国々が相互にその固有性を承認することを通して、地球規模の世界における普遍性が確立されると考えたのであり、本書はその彼の思想的格闘の軌跡でもあります。

開国過程という大きな歴史的転換期にあって、みずからの国の独自性をまったく消し去った形で通商・外交を行うことは、ほかならずその主体性を失うことである――と、松陰は「四海平等」といった抽象的普遍主義を厳しく指弾しました。自身の固有性ととともに他者のそれをも尊重することは、おそらく現代の国際社会あるいは社会一般においても有効な態度であろうと思っております。

しかし実際の国際社会では、みずからの固有性を主張するだけで、他者のそれを承認しなないような事例も少なくありません。今後は、固有性を主張することの意味を、たとえば自同律そのものを「割拠見」と断じ、「宇内に乗出すには公共の天理を以て彼等が紛乱をも解くと申丈の規模無之候ては相成間敷」と唱えた横井小楠などの可能性をも検討していきたいと考えています。

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