東日本大震災の援助に携わる人たちへ

平成23年8月24日
日本コラージュ療法学会学会理事長
森谷寛之

 2011年3月11日に突然発生した東日本大震災で被災された方々へ,本学会を代表して心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。
 本学会は,2009年に設立された若い学会で,会員もまだ200名に満たない小さな学会です。しかしながら,本学会としてもこの震災に対して貢献したいと考えています。
 私たちの学会は,「コラージュ」(切り貼り遊び)という方法を使って,心のケア,療法を目ざすものです。この方法は,自分では言葉で経験をまとめることもむずかしい,また,絵も描いたりするのが苦手な人に,新聞や雑誌などの記事や写真などの既成の材料をを借りて,気持ちを表現することによって,癒やしに貢献できるようにという目的で開発されました。方法はとても簡単明瞭で,とりわけ特殊な材料も必要としないために,多くの人でもできる方法です。年齢も幼児から高齢者まで幅広く適用できます。
 「コラージュ」という言葉は,ピカソやブラックが始めた芸術的手法を意味する言葉ですが,この芸術の方法をそのまま適用するということではありません。美術のコラージュとコラージュ療法では,名前が同じなので混同されがちですが,その目的とすることがまるきり違います。美術の授業でコラージュを習ったからといって,それがそのまま療法に使えるということでもありません。
 この方法は雑誌やパンフレットなどを「切って貼る」という非常に単純な方法を示しています。「切って貼る」という方法はまったく共通しているので,まぎらわしいのです。この方法は,芸術分野では1910年頃に出てきたのですが,それとは関係なく古くより,精神病院の入院患者さんたちが,独自に切って貼るという表現方法を見出し,使っていたことが知られてます。もちろん,それぞれの患者さんたちは,自分たちのしていることの意味や意義は知らないままに来ていました。
 また,患者さんだけではなく,健康な多くの人がそれとは知らずに,雑誌などを切って貼るということを通して,癒やしを経験しています。言われてみれば,そういうことをしていたと思い出す人も多いはずです。
 今回の大震災の心のケアにも,この方法が有効である,ということを私たちは提案するものです。しかし,これらの使用をするにあたっていくつかの注意するべきことがあると考えます。

 これについてまとめておきたいと思います。
①大きな震災を体験した時,自分の心に何が起こったのか,それを知ることは意外にむずかしいものである。これまでも,自然状態では心の悩みを改善するために,「切って貼る」という表現方法が採用された歴史がある。それ故に,大震災の心のケアについても本方法が有効であると考える。
②しかし,効果が期待できるからといって,それを無理矢理に強制することは避ける。コラージュ技法の実施を優先させるのではなく,何よりも被災された方々の心の悩み自体に寄り添うことが最重要視されなければならない。従って,このような方法を適用するには,時期や状況がとても重要である。安心できる状況にない時,本人がしたくない心境の時などにおいては,無理に制作させることはしない。安全が保証された環境,比較的落ち着いた状況,信頼できる人間関係が作られている状況ですることが望ましい。
③作らせたらそれでよい,それで終わりということではなくて,その後のフォローも重要である。震災体験後の状況下にあって,被災された人たちが抱える固有のトラウマに如何に寄り添えるのかが関わる側の実践課題である。「切って貼る」という方法自体はとても単純で,誰にもできるのであるが,簡単なだけにそれで済ませてよいと考えることが多く見受けられる。この点が美術制作とコラージュ療法との大きな違いである。美術制作の場合,制作が終わったら基本的にはそれでおしまいである。コラージュ療法では,コラージュ制作は,その後のかかわりの出発点に過ぎない。
④表現された内容の見守りと表現する人たちへのかかわりの継続は大切である。1回かぎりでよいというのではない,ということをいつも念頭においてほしい。もちろん,健康な人なら1回でもう十分ということもあるだろうけれど。
⑤どうのように実施すればよいか,作成された内容の意味が分からない,また,作品をどのように役立てたらよいのか,など,いろいろと不明のことがあるかも知れない。そのような場合,本学会に相談していただきたい。本学会はその指導を行う用意があります。実践がより意味のある体験になるようにアドヴァイスしていきたいと考えます。

 少しでも本学会が役に立てるように,会員一同,今後も研鑽を積んでいきたいと思います。速やかな復興を心よりお祈り申し上げます。